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ナイトメアの「18歳」という楽曲と、未成年選手たち

 中国の政策により、2021年9月から未成年者のゲームプレイ時間が大幅に制限され、未成年者がゲームによってお金を稼ぐことが規制された。それによって、第五人格プロフェッショナルリーグで選手登録をしていた多くの未成年選手達がチームを離れることとなった。

 クラブから正式な離脱の発表はないものの、2021年秋季からのメンバー一覧に彼らの名前はもちろんない。クラブに残っている選手も、もちろん存在しているし、その逆で既に去った選手もいる。

 世界大会であるCOAⅤ、その予選には参加できなくとも、もしチームが予選を通過し世界大会へ進出することが決定すれば、その頃には18歳を迎えているので、COAⅤに参加できるという選手もいる。しかし、もちろんそのような選手ばかりではない。現在16歳の選手は、これから約2年も足踏みをしていなくてはならない。

 彼らのもどかしい現在の状況に、わたしは一つの楽曲を思い出していた。

 それが、ナイトメアの「18歳」という曲である。

 

 ここでナイトメアというバンドを少しだけ解説していきたい。彼らは結成22年目の、所謂ヴィジュアル系というカテゴリーに属しているバンドだ。2003年にメジャーデビューをした彼らの楽曲は「DEATH NOTE」や「魍魎の匣」など、最近では「デュエル・マスターズ キング!」などの有名なアニメの主題歌にも多々選ばれている。「DEATH NOTE」は第五人格ともコラボレーションをしていたので、もしかしたら彼らの楽曲を聴いたことがある方もいらっしゃるのではないだろうか。

 「18歳」という楽曲は彼らの4番目のアルバム、「The WORLD Ruler」に収録されている。何故、彼らの楽曲と未成年選手達が重なったと感じたのか。それはヴォーカルYOMIが書いた歌詞にある。

大人たちが決めた規則に 身動きすら取れずに

悔しさと空しさだけが 胸にこみ上がった

何時だって不安は消えずに 夢を追いかけている

空白の未来は果てなく 孤独と揺れながら

出典:YOMI「18歳」

 この歌詞は現在の中国の若者の気持ちを表現しているのではないか。彼らは政府の政策に抗うこともできず、そのまま大人たちの決めた通りに流されることしかできない。彼らは悔しさや空しさという気持ちを持ちつつも、決まったことだし仕方ないのだ、と諦めているのだろう。

 ナイトメアがこの楽曲を発表したとき、彼らは既に18歳という年齢を過ぎていた。作詞を担当したYOMIはきっと自分達がバンドを始めた頃、つまり高校を卒業する年齢である18歳ぐらいを思い出して作詞したのではないだろうか。海外では成人の年齢である18歳は日本ではまだ未成年。その年齢を彼らは子供と大人の狭間である年齢と考えていたのだろう。確かに、その時期は自身の生き方というものにとても迷いが生じる年齢であるし、現実というものが見えるだけに、夢を純粋にただ追い続けるということができなくなってくる年齢だ。YOMIもそれを理解していて、こう歌詞に綴っている。

仲間と共に輝ける 場所へ走れるはずさ

あこがれていた素晴らしい 景色きっとこの手に

だけど自分に正直に 生きるのは難しい

どんな生涯も乗り越える 強さが足りなくて

出典:YOMI「18歳」

 この歌詞は2021年夏季で輝いていた未成年選手達の姿と重なる。彼らはプロという輝かしいステージで多くの戦いを繰り広げ、嬉しさも悔しさも、いろいろな感情を経験していた。しかし今ではそれを経験することができなくなっている。正直に、自由に生きられるのであれば、彼らはクラブを去りたくはなかっただろうし、クラブにいても直接仲間を助けられずに何もできない、というもどかしさを経験しなくてもよかった。しかし、中国では様々な理由から自由に生きる、ということはできない。そこで生きていく以上仕方ないことだ。中国政府も未成年者のゲームのプレイ時間に対する問題について、以前から頭を悩ませていただろうし、それを踏まえての政策だということも分かる。ただ、行き過ぎた政策であるということも確かだ。

 ただ、この「18歳」という楽曲は現状を嘆いているだけの歌詞ではない。信じて進めば夢を叶えるということができる、という曲でもあるのだ。楽曲の後半はこのような歌詞になっている。

二度と戻らない瞬間に 後悔しないように

今できる事の全てを 解き放っていこう

強く願えば願うほど 夢に近づけるから

誰にも負けないぐらいに 夢を想像して

出典:YOMI「18歳」

 人生は、全て二度と戻らない瞬間だ。夏季で活躍していた未成年選手達もそう感じて試合に臨んでいたと思うし、その時その瞬間、できることの全てを試合にぶつけてきたはずだ。今は身動きが取れずに、もどかしい状況が続いていたとしても、そこからでもできることがある。実際、クラブに残っている選手は、他の選手達を間接的にサポートしているし、試合に出られないとしても彼らが傍にいてサポートし、励ましてくれるということは心強いはずだ。形は変わったとしても、彼らがクラブの一員であること、大事なメンバーであることには変わりはない。

 クラブに残ることを決めた未成年者も、クラブを去る決断をした未成年者も、どちらの決断も尊重したいと思うし、どちらの決断も決して間違いではない。彼らには彼らの生き方があるし、自分で決めて、自分が思うように進んでいって欲しい。彼らの未来が輝かしいものになるであろうことを祈って。

曖昧な自由に抱かれて 進むこの道を

不確かな明日を信じた 迷う事無く

出典:YOMI「18歳」

 

 最後に、ナイトメアの4枚目のアルバムである「The WORLD Ruler」は「DEATH NOTE」のOPである「The WORLD」も収録されており、初期の彼らが作り出したアルバムの中でも非常に完成度の高い一枚になっている。この記事で紹介した「18歳」も聴きやすい楽曲であり、気になった方には是非とも聴いてもらいたい一枚だ。